知財業界と専門分野(弁理士の日記念ブログ企画2026)

毎年の恒例になっている「弁理士の日記念ブログ企画2026」に、運営者のドクガクさん(@benrishikoza)から参加のお誘いがあって、参加することにした。初参加である。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2026/
今年は「知財業務と専門分野」について、「自分が何の専門家で、どうしてその専門分野に至ったのか」を記事にすることがお題になっている。これまでの自分の歩みを振り返るよい機会になると思い、記事をしたためることにした。
1.経緯
【38年前】
「高校の数学は難しいな、よくわからない。テストもいつも赤点ばかりだ。」
「物理も苦手だ。運動方程式とかもよく理解できない…」
「大学受験は、数学や物理の試験がない私立文系にしよう!決めた。」
「受験する学部はどうするかな…」
「経済学部や商学部は、計算があるからやめておこう。数学の要素がない法学部がいいな、そうしよう。」
【35年前】
「法学部は数学がなくていいな。法律の勉強も嫌いではないぞ。」
「周りは司法試験の受験生ばかりだ、俺もやろうかな。」
<3日後>
「合格率3%弱で合格者の平均年齢が29歳だと?せっかく大学に入ったのだから、キャンパスライフを楽しみたいぞ。」
「ようやく受験勉強から解放されたのに、司法試験などやってられるか、バイバイ!」
【33年前】
「ふーん、工業所有権法という授業があるのか、とってみるか。」
「あまりおもしろくないな。」
「弁理士という資格があるのか。なんだ、理系の仕事か、俺には関係ないな。」
【27年前】
<ある日の職場にて>
メーカー営業1「この製品にはここに特許があるんですよ。」
俺「ほおお、そうなんですか。」
<またある日の職場にて>
メーカー営業2「この商品の商標はこれで、ウチしか使えないんですよ。」
俺「へええ、そうなんですね。」
俺「(特許も商標も弁理士の仕事だよな。なんとなくおもしろそうだな。)」
【26年前】
「調べれば調べるほど、特許の仕事はおもしろそうだ!」
「弁理士試験を受けてみるか。」
「合格率が5%!?司法試験と大して変わらないじゃないか。」
「でも、俺が特許の仕事をするには弁理士の資格が必要だよな。」
「弁理士になれば独立することも夢じゃないぞ!」
「弁理士試験に挑戦することにしたぞ!」
「特許事務所に転職して、仕事を覚えながら勉強しよう。」
※このあたりでプライベートに大きな変化が発生し、(以下略)
<特許事務所1の面接>
事務所1「あなた文系でしょ。あなたがうちに来てもやってもらうことはないよ。」
俺「…」
<特許事務所2の面接>
事務所2「あなた、法学部出身なら、弁理士じゃなくて弁護士になったほうがいいんじゃない?」
俺「弁護士だと明細書を書く仕事に就けないじゃないですか。」
事務所2「まあ、そうかもね。」
俺「…」
<特許事務所3の面接>
事務所3「うちに来たら特許事務をやってもらうことになります。」
俺「はい!(試験に合格するまでは)特許事務の仕事をがんばります!」
事務所3「試験に合格しても一生、特許事務の仕事をする覚悟があるということでよいですね。」
俺「…」
「ううう、事務所への転職もうまくいかないな。仕方がない、今の仕事を続けながら勉強をがんばろう。」
【23年前】
受験仲間「弁理士試験に合格しても、特許事務所に入ったら飯村さんはいじめられるよ。」
俺「えっ、なんでですか?」
受験仲間「飯村さんは文系だから。」
俺「…」
【21年前】
「よし、合格したぞ!特許事務所に転職しよう。」
<特許事務所4の面接>
俺「特許事務所に入って明細書が書きたいです!」
事務所4(所長)「(大声で怒鳴り気味に)きみは文系なんだから、まずは商標をできるようにしてメシを食べられるようにしないとダメだよ!」
所長「俺が商標を教え込んでやるよ。まずは商標の仕事に2年間は専念しなさい。その後、特許の仕事をやらせてあげるよ。」
俺「(俺の将来を案じてくれている。なんてすばらしい先生なのだろう。)はい、ありがとうございます!お世話になります。」
【19年前】
俺「先生、2年が経ちましたので、そろそろ特許の仕事をやらせてください!」
所長「エーッ!?きみは商標の世界で生きていくんじゃなかったの?今から特許の仕事をするつもりなの?」
俺「えっ?」
所長「えっ?」
【18年前】
「よし、新しい事務所で仕事をしまくって特許実務をバリバリこなすぞ!」
「仕事の後は、東京理科大の夜間にも通学して、電気工学の勉強をするぞ!」
「数学や物理を勉強し直すのはキツいけど、やるしかないな。」
【17年前】
「ヒーっ!仕事しながら理科大の勉強するのはつらい、つらすぎる!」
「明細書は何を書いていいかわからないし、電気数学や電子回路の授業なんてちんぷんかんぷんだ…」
「今日も演習で23時まで残された…早く家に帰りたいけど、仕事が終わってないから事務所に戻ろう。今日も事務所に泊まるのか…」
ベテラン指導者「おはよう。」
俺「おはようございます!」
俺「請求項のチェックをお願いします!」
ベテラン指導者(1分間ほど眺めて)「やり直し!」
俺(恐れながら)「あの、どこがよくなかったですか?」
ベテラン指導者「…」(昼過ぎまで放置)
(以降、上記ステップをしばらくループ)
【15年前】
「よし、理科大もなんとか無事に卒業したぞ!これからは仕事に専念して実務一直線だ!」
所長「飯村さん、この間の明細書をチェックするから見せて。」
俺「かしこまりました!これでございます。」
所長「うーん、全然ダメだよ!飯村さんは特許の仕事に向いてないよ!」
俺「…」
(以降、上記ステップをしばらくループ)
俺「所長に『特許の仕事に向いていない』と言われてしまいました…」
ベテラン指導者「まあ気にするな。俺がしっかり鍛えてやるからな。」
俺(震えながら)「は、はい…」
【12年前】
「なんとかノーチェックで依頼者に原稿を出せるようになってきた!」
「理科大で学んだ情報工学系の勉強も、実務に少しずつつなげられるようになってきた気がする。」
「情報処理の明細書を書くのが楽しくなってきたぞ。」
「独立する前に、特許の活用の場面の仕事も経験しておきたいな。」
「おや、おもしろそうな法律事務所があるな。応募してみるか。」
【11年前】
「法律事務所の知財業務は、権利化だけでなく、契約、DD、鑑定、訴訟等とバラエティに富んでいるぞ。」
「契約の仕事もやりがいがあるな。明細書の考え方と似ている部分もある気がする。」
「訴訟は大変だけど、明細書を書く際に訴訟のことを意識して記載することができるようになるし、勉強になる。今のうちに学べるものは学んでおこう。」
【10年前】
「ふう、なんとか準備書面もできたぞ。明日、見直そう。」
「今日は大御所の弁理士先生との会食だ!楽しみだな。聞けることはなんでも聞いてみよう。」
俺「(会話の流れの中でやや自嘲気味に)私は文系だから、専門がないんですよ…」
大御所弁理士「飯村さん、気にすることはないよ。専門は実務が決めるのだよ。」
大御所弁理士「私だって、学生時代は化学を勉強したけど、今は機械の特許ばかりで化学はやってないからね。私の専門は機械だよ。」
俺「!!」
【現在】
「文系とかどうのとか関係ない。俺は20年、この仕事をしてきた。『これ』が俺の専門分野だと自信をもって言えるぞ。」
2.専門分野の定義
ところで、知財業界における専門分野とは何か、本稿での定義をしておきたい。
知財業界の業務といえば、権利化、訴訟、契約、調査、分析、翻訳、コンサルティング、価値評価等を挙げることができる(他にもいろいろあるだろう。)。知財業界においてこれらのうちのどの業務を専門として行っているのか、それは「専門業務」であって「専門分野」ではないと、本稿では位置づける(他の方の投稿で本稿における「専門業務」を「専門分野」と位置づけていたとしても、もちろん全く異存がない。)。その専門業務において、特許、意匠、商標、著作権等といった知財のどの領域(法域)を専門として業務を行っているのか、本稿では、専門業務として行っているその領域(法域)を「専門分野(広義)」であると定義する。
さらに、特許では、一般的に、電気、機械、化学といった技術分野ごとに専門分野を大別することができる。この技術分野における区分けを、本稿では「専門分野(狭義)」と定義する。この「専門分野(狭義)」は、たとえば電気であれば「電気・電子回路」、「通信」、「情報処理」、「コンピュータ」等のように、化学であれば「有機化学」、「無機化学」、「バイオテクノロジー」等のように、さらに細分化することができる。このように細分化した技術分野の区分けを、本項では「専門分野(最狭義)」と定義する。
3.私の専門分野
私は、特許事務所を経営しており、通常は権利化業務という専権業務を中心にやっていることから、専権業務(権利化業務)が私の「専門業務」である。
この専門業務において、特許の領域を中心に業務を行っていることから、特許が私の「専門分野(広義)」である。
その専門分野(広義)において、技術分野は電気に関するものを中心に行っていることから、電気が私の「専門分野(狭義)」であり、特に、ソフトウェア関連の技術に関するものが多いことから、情報処理が私の「専門分野(最狭義)」である。
4.おわりに
知財業界では、初対面の人と会話をする際のメジャーな話題の一つとして、専門分野に関するものを挙げることができる。その中で当然に出てくる「専門はなんですか?」の質問に対して、私はびくびくしている時期があった。発明者や知財担当者と打ち合わせをしていても、文系の私がきちんと明細書を書けるのか不審に思っているのではないかと疑心暗鬼になっている時期もあった。
考えてみると、目の前に立ちはだかったものから逃げ出したことに対するツケを払わされる半生であった。高校時代に数学や物理といった理系科目から逃げ、大学に入学した後に資格試験(司法試験)から逃げた(司法試験はそもそも真剣に受験を検討したとはいえないレベルかもしれないが、その後も何度となく頭をよぎったから、気になっていたことは間違いない。)。
高校時代に逃げた理系科目には、弁理士になった後に東京理科大学に通学することでツケを払い、そもそも、弁理士試験を受けて弁理士になることで、大学時代に逃げ出した資格試験にも対峙することになってツケを払ったといえる。上記の経緯をたどったド文系だった私が「専門分野は特許であり、電気、特に情報処理を中心に業務をしています」と答えることができるようになったのは、これらのツケを払いながら実務をやることで自信がついたからであり、それを裏づけてくれたのが大御所弁理士の言葉(「専門は実務が決める。」)であった。
負の要因(適切な言葉の選択であるかどうかわからない。)を潰していった結果としてできあがった知財業界における専門分野を、私は大切にしていきたい。
