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サイバー曼荼羅 −コンピュータ文化をカウンターカルチャーのフィルタを通したときに見える世界−【第14回:ネットカルチャー】

2025.08.25

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 WWWが実装されてインターネットが普及することによって、ウェブから多くの情報がもたらされるようになると、現実の社会とは別に、インターネット上の社会が観念されるようになった。これに関して、川上量生氏は、「現実世界とは別の仮想現実の世界としてインターネットを理解する」ために、「ネット新大陸」という概念を作り出した※1。このように、インターネット上での新たな社会が観念されるようになると、その社会を構成する人々によって、インターネット上の独特の「文化」が形成されていったのである。

 

前にも触れたように、そもそもインターネットは、研究機関の間で学術情報の共有を図ることを目的として開発されたものであるが、普及の段階ではカウンターカルチャーの系譜を汲んでいたことから、普及の当初は、保守勢力に対するリベラル勢力の活動の場として機能した。1996年2月にアメリカで成立した「通信法」の中の「通信品位法」で規定された“インターネット上の下品な情報の規制”に対して、電子フロンティア財団※2の共同設立者であってグレイトフル・デッドの楽曲の作詞を手がけたこともあるジョン・ペリー・バーロウが、「インターネットの世界は国家の統治から離脱して新たな世界を創るべきである」※3といった趣旨の『サイバースペース独立宣言』を表明したことは、その先がけ的な事例として象徴的である。

その後、アメリカでは、この『サイバースペース独立宣言』に触発されて「インターネットの世界では国家の統制に対抗すべきである」といった動きが生じるとともに、2001年のアメリカ同時多発テロをきっかけとした国民の政治意識の高まりにつれて、後に「ブログ」と略称されるようになるウェブログというインターネット上のフォーマットを舞台として、新聞やテレビといった主流のメディア(現在では「オールドメディア」などと称されることもしばしばである。)では日の目を見なかった人々が「論客」となって、論陣を張り巡らすようになったのである。このようにアメリカでは、ブログというフォーマットにおいて、人々が論陣を張るというカウンターカルチャー的な要素が強いインターネット上の文化が形成された。

一方、日本では、漫画、アニメ、ゲーム、コンピュータ等といったオタク的なコンテンツや、エロ、グロ、タブーといったアングラ的なコンテンツに関心をもつ人々が、インターネットにいち早く常駐した※4ことを一因として、主にアメリカのインターネット文化にみられるようなカウンターカルチャー的な要素が薄められた、サブカルチャー的な要素が強いインターネット上の文化が形成されることとなった(エロ系、グロ系、ロリコン、宗教、スピリチュアル等のアンダーグラウンドなテーマのウェブサイトが多数存在していた。)。

このような、サブカルチャー的な要素が強い日本のインターネット文化は、電子掲示板(BBS: Bulletin Board System)というフォーマットを一つの舞台として育まれていった。電子掲示板は、コンピュータネットワークの中心がパソコン通信であった時代の「草の根BBS」とも称される小規模なBBSに端を発するものであって、この電子掲示板において、情報が自由に流通するというインターネットの特徴に根ざして、ユーザ間で情報(コンテンツ)を共有(シェア)することを目的とした多くの電子的なコミュニティが形成された。

インターネット上の電子掲示板を用いたコミュニティとしては、1996年に開設された「あやしいわーるど」が筆頭に挙げられる。「あやしいわーるど」は、1995年3月に発生した地下鉄サリン事件をモチーフにした、地下鉄でサリンを散布して犠牲者の数を競うことを内容とした『霞ヶ関』というアウトローなゲームを所有していた人物が、このゲームを求める多数の声に応じてインターネット上に『霞ヶ関』をアップロードするプラットフォームとして開設したことに端を発する。その後も、「あやしいわーるど」の別館的な電子掲示板※5において、「神戸連続児童殺傷事件」の犯人である「少年A」の実名が他のメディアに先んじていち早く掲載される等、膨大な情報が溢れる掲示板であった。

この「あやしいわーるど」が1998年に閉鎖されると、「あやしいわーるど」に常駐していた住人たちが、1997年に開設された掲示板である「あめぞうリンク」に流れ込んだ。「あめぞうリンク」は、最新の投稿が最上位に表示されるマルチスレッドフロート型を採用した電子掲示板であって、アングラに限られることなく、政治、経済、株式、ニュース、芸能、スポーツ等の多数の話題を扱う巨大掲示板であった。

ところが、この「あめぞうリンク」も、あるスレッドでの話題が契機となって最終的には管理人が管理を放棄することとなり、「あめぞうリンク」にサーバを提供するレンタルサーバ事業者が、サーバの提供を停止することによって終焉を迎えることとなった。

この「あめぞうリンク」での問題の発生の前後において、「あめぞうリンク」のユーザであったひろゆき(西村博之)氏が、「あめぞうリンク」で取り扱われない類の話題を「あめぞうリンク」を補完する話題として取り扱う掲示板を開設した。この掲示板は、「あめぞうリンク」のサブ的なセカンドチャンネルと位置づけられたことから、「2ちゃんねる」※6と命名された。

「2ちゃんねる」は、開設の当初から1万人/日の来場者数(アクセス数)があったようであるが、掲示板の開設と前後して、「東芝問題」、「東海村原発臨界事故」等といった社会的なインパクトを与える事件や事故が発生し、これらを大きく取り扱ったことによって、ユーザが急増したという※7。さらに、2000年5月に発生した「西鉄バスジャック事件」では、事件の犯人(当時17歳の少年であった。)が「2ちゃんねる」に「ネオむぎ茶」のハンドルネームで書き込みを行っていたことが明らかになり、この書き込みを見ようと多数の人が殺到したことを契機として、「2ちゃんねる」は、インターネットのユーザを超えて広く世間に知られるようになったのである。

電子掲示板は、これら「あやしいわーるど」、「あめぞうリンク」や「2ちゃんねる」のような巨大な総合掲示板のほかに、画像の投稿を中心とした画像掲示板の「ふたば☆ちゃんねる」や、この「ふたば☆ちゃんねる」に影響を受けた当時15歳のアメリカ人が開設した英語圏を対象とした画像掲示板の「4chan」などが知られている。

さらに、特定のジャンルに特化した中小規模の掲示板も数多く存在している。特に、アダルト系のコンテンツ(画像、動画)に関する掲示板(私も含め、お世話になったことのない男性はいないと断言する。)は、セクシー女優の画像等に特化した掲示板や、職業女優ではない人々(いわゆる「素人」と称される人々である。)の画像等を扱う掲示板、体験談や小説などのテキストコンテンツが中心の掲示板、あるいは特定の性的嗜好ないしは趣向に応じた掲示板など、その内容は多岐に亘っている。大型の電子掲示板のユーザが減少して過疎化している一方で、アダルト系の掲示板は今でも活況を呈しているようにみえる。このようなアダルト系の掲示板の存在は、インターネットのユーザが増大した大きな要因のひとつであったといえるであろう※8

ところで、電子掲示板では、インターネット上の社会の中で機能する特有の現象、言い回しやネタ等が、いわゆるネットカルチャーとして形成されていった。このようなネットカルチャーとして、インターネット上でよくみられる現象としては、例えば、特定の事象(ユーザや書き込み等)に対する批難や抽象等が殺到する「炎上」※9、トピックにそぐわない不適切なコメントを投稿する「荒らし」、あえて炎上を誘発するような書き込みを行う「釣り」(煽り)等が挙げられる。

インターネット上で多用される言い回し(ネットスラング)は、略語(乙、オワコン、ググる、リア充/非リア、kwsk、 w/草、 ggrks等)、造語(あぼーん、キタコレ、メシウマ、DQN等)、あるいは誤変換・当て字・置換(逝ってよし、ネ申、禿同、ワロタ、イッヌ、ネッコ、ぬこ等)等に便宜的に分類される。数は非常に多く、仮に全てを収録しようとすれば、広辞苑なみの用語集ができあがるのではないかと怪しまれるほどである(もちろん流行り廃れがあるので、ここに挙げたものも含めて現在は「死語」となっているものも多い。)。このようなネットスラングは、しばしばアスキーアートを伴って用いられたが、たとえば「ギコ猫」や「モナー」といったアスキーアートは、それ自体が単独でも用いられるほどに名を馳せたのであった※10

この種のネットカルチャーは、主従でいえばインターネット上の社会を「主」と考えているいわゆる「ネット原住民」以外の者であってインターネット上の社会を「従」と考えているいわゆる「ネット新住民」※11にとっては、意味をなさないことが多かった。一方で、ネット原住民からすれば、ネットカルチャーは、インターネット上の社会で活動するための作法・ルールあるいはマナー(ネットリテラシー)であるともいえるものであった。このような観点から、インターネット上の社会で活動しようとする「新参者」にとっては、ネットカルチャーを理解するまでは「(半年間ほどは)書き込みをしないでじっと見ていろ(ROMっていろ)。」という、簡単に立ち入ることが許されないような雰囲気が形成された。

一方、インターネットから誕生した上記のネットスラングやアスキーアートは、ネット新住民にも次第に理解されるようになり(むしろ積極的に使いたがっているようにすらみえた。)、ネットカルチャーが、インターネット上の社会を飛び越えていわゆるオールドメディアにも散見されるようになった(たとえば、バラエティ番組等でネットスラングが使われるようになったことが挙げられる。)。さらには、2ちゃんねるにおけるユーザの書き込みに基づいて作成された『電車男』は、ドラマ、映画、漫画等の複数のメディアで展開され、インターネットが発祥地となるコンテンツが現実の社会に進出したとして社会現象にもなった。

日本のインターネットが電子掲示板で盛り上がっている真っ最中の2002年ごろ、アメリカで火がついたブログが日本にも到来した。ブログが到来した際、日本にはウェブ日記や個人ニュースサイトといったフォーマットが既に存在していたことから、ブログは日本では普及しないのではないかとも考えられていたようである。しかし、政治家や芸能人等の著名人が記事を書き始めた※12ことにも起因するのであろうが、個人がブロガーとして記事を書き、それをユーザが閲覧して自らも記事を書くようになってブロガー及び閲覧者の双方がともに増えていったことから、当初の予想に反して、ブログは広く普及することになった。

ブログの普及によって、個人が情報を発信する時代に突入するとともに、ソーシャルネットワークサービス(Social Network Service:SNS)という個人が情報を発信しやすいプラットフォームが、時代の必然であるかのようにおあつらえむきに用意された。SNSは、ユーザ間でのコミュニケーションが行われることを前提として構築されるユーザ間のつながり(ネットワーク)を提供するサービスであって、mixi、Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、ニコニコ動画、LINE、あるいは音声のX(旧Twitter)ともいわれるClubhouse等、目的や用途や性質がそれぞれ異なる種々のものが存在する(ちなみに、SNSが日本で普及したのはmixiがきっかけであった。)。

日本では、これらのSNSのうちたとえばX(旧Twitter)やニコニコ動画等において、電子掲示板に由来するネットカルチャーが取り込まれているようにも見受けられ、電子掲示板のピークが過ぎた現在においても、電子掲示板で誕生した一部のネットカルチャーは一部のSNSで生き残っているようである。一方で、SNSもその誕生以降、時代の求めるニーズに応じたユーザ数の変動に伴う栄枯盛衰の物語が存在しており、現在も時代の求めに応じて新たなSNSが誕生する一方で、役目を終えそうなSNSが消えようとしている。

情報処理技術の進展によってインターネット上のサイバー空間が実現され、サイバー空間における「生活様式」が普及してあたりまえのように遍在するに至ったこの20数年間で我々が見てきたものは、多分に抽象的な名称ではあるが、「第三次産業革命」とも称されるほどに現実の社会における生活様式の革新的な変化を我々に迫った「魔法」としか思えないような製品やサービスが登場したサイバー空間の技術的側面ばかりではなく、見過ごされがちではあるが、ネットカルチャーという禍々しい新たな表現形態が登場したサイバー空間の文化的側面も等しく見てきたはずである。

要素としてはサブカルチャーに属するネットカルチャーも、そのスタンスとしては、ネット新住民に対するネット原住民の対抗意識から生まれたカウンターカルチャーであると把握することができるのであって、カウンターカルチャーの文脈から生まれたパソコンやインターネットといったサイバー空間の技術的な功績と同根であるから、見過ごされるべきものでは決してない。

ところで、70年代に活躍したイギリスのグラムロックバンドであるスレイドは、“Cum on feel the noize”、“Skweeze me, pleeze me”、“Gudbuy t’ Jane”等、あえて間違えたスペルの単語を曲名に用いる手法を多用した。誤変換を好んで用いたネットスラングとも通じるこのような彼らの「手口」は、当時も現在も、魅力的なほどに既成の教育や文化に対して反逆的である。そんなカウンターなスレイド“だから君が好き”※13なのである。

<注>

※1 一方で、インターネットは単なる「場」であって「リアルの社会の写し絵」に過ぎないものであると把握する立場もある(川上量生 監修(2014)『角川インターネット講座04 ネットが生んだ文化 誰もが表現者の時代』角川学芸出版 P.12〜P.13)。

※2 前章で少し触れた、パソコン通信による電子掲示板であるWELLを通じて知り合ったミッチ・ケイパー、ジョン・ペリー・バーロウ、ジョン・ギルモアらによって、デジタル上の言論の自由を守ることを目的として設立された。

※3 伊藤穰一 アンドレー・ウール 著(2018)『教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロックチェーン』NHK出版新書 P.46

※4 川上量生氏によれば、「ネット新大陸」に最初に移住してきた「ネット原住民」という人々のことを指し示すものである。

※5 「あやしいわーるど」のオリジナルの掲示板とは別に、ハッキングやクラッキングに関する話題を中心に扱う「あやしいわーるど2000」という掲示板が存在していた。この頃は、「ハッキング」という言葉は、一般的にはネガティブな言葉として考えられていたようである。

※6 種々の経緯があって現在は「5ちゃんねる」と改名されていることは、よく知られた事実であろう。

※7 更に、2000年の「あめぞうリンク」の閉鎖によって、「あめぞうリンク」のユーザが一挙に「2ちゃんねる」に流入したことから、ユーザが爆増したようである。

※8 これはやはりひとえに、コンテンツの訴求力の強さに起因するものであろう。

※9 ネットリンチとも称されることがあるネガティブな現象である「炎上」に対して、インターネット上での特定の事象についての盛り上がりや祝祭的な現象である「祭り」も、ネットカルチャーのひとつとして挙げることができるが、ときに「祭り」も、「炎上」と同じくネットリンチの様相を呈することがある。

※10 例えば「ギコ猫」については、タカラが2002年に商標登録出願を行い、「モナー」にインスパイアされたといわれている「のま猫」をエイベックスが2005年に商標登録出願を行ったという事実からも、その人気をうかがい知ることができる。

※11 川上量生氏によれば、ネット原住民に遅れてネット新大陸に入植してきた人々のことを指し示すものである。

※12 中川翔子の『しょこたん☆ぶろぐ』や眞鍋かをりの『眞鍋かをりのここだけの話』といったブログが、一定層に人気を博した。

※13 “Coz I luv you”(1970)スレイド

<参考文献>

・川上量生 監修(2014)『角川インターネット講座04 ネットが生んだ文化 誰もが表現者の時代』角川学芸出版

・ばるぼら 著(2005)『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』翔泳社

・ばるぼら さやわか 著(2017)『僕たちのインターネット史』亜紀書房

・伊藤穰一 アンドレー・ウール 著(2018)『教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロックチェーン』NHK出版新書

・フリー百科事典『ウイキペディア』「電子掲示板」、「あやしいわーるど」、「あめぞう」、「2ちゃんねる」

・『ニコニコ大百科(仮)』「ネットスラングの一覧」

https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7